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高齢者の就労促進と企業の対応について

カテゴリー 2018年05月29日

政府が在職老齢年金制度を見直す方針を固めました。6月にまとめる経済財政運営の基本方針(骨太方針)に明記する予定です。

 

在職老齢年金は、働いていても厚生年金を受けることができる制度ですが、給与が一定水準を超えると厚生年金の一部を減額・支給停止する仕組みとなっています。現状では年金が減らないように意図的に働く時間を短くする高齢者もいることから、今回の方針は年金減額を縮小して高齢者の就労促進を図ろうとするものです。
少子高齢化の進展で生産年齢人口が急激に減少することが見込まれていて、少子高齢化に伴う人材不足が構造的な問題となっています。現在でも高齢者の就労を促進する法律や施策が行われていますが、今後さらに年齢に関係なく働ける社会を実現することが進んでいきそうです。

 

高齢者の雇用の実態として、約8割の企業が定年年齢を60歳としており(※1)定年に際した継続雇用の前後で、賃金は減少したとする人の割合が8割を超えていて、定年の雇用継続前後の賃金減少率は2~5割が中心となっています(※2)。今後の高年齢者の賃金制度のあり方について、「定年後の高年齢者も、評価制度に基づき賃金を決めるのが望ましい」としている企業が約6割弱あり、定年前後で仕事内容が変わらないとしている企業の割合は約8割となっています(※3)。

 

これらの調査結果から、多くの高齢者は定年後に賃金が減額しても同じような仕事をしていることになりますが、これでは高齢者の働く意欲は高くはならないでしょう。実際に定年後再雇用された従業員の人からも「仕事内容は同じなのになぜ給与が減ってしまうのか。」といった声も多く聞くことがあります。以前は、厚生年金の在職老齢年金や雇用保険の高年齢者雇用継続給付を考慮して、定年退職後の給与を減額することが多くの企業で行われてきました。このことから現在でも多くの企業で定年退職後再雇用の賃金減額が行われているようです。

 

一方で近年の裁判例としては、定年後の再雇用契約を巡り再雇用せずに退職した元従業員が損害賠償を求めた訴訟で、定年後再雇用の条件として賃金を75%カットする提案をしたのは不法行為にあたるとして、会社に慰謝料100万円の支払いを命じた事件(九州総菜事件、福岡高裁 平29.9.7)、再雇用後の労働条件が争われている事件として、定年前後の業務内容が変わらないにもかかわらず、再雇用における賃金額が定年退職前の8割の水準となっていることが労働契約法20条に違反するとして正社員就業規則の適用を求めた訴訟では、労働者の職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情に照らして不合理なものであるということはできず労働契約法20条に違反するとは認められないとされ、賃金減額が認められた事件(長澤運輸事件、東京高裁 平28.11.2)がありますが、この長澤運輸事件は上告しているため最高裁の判断が今後注目すべきものとなります。また、定年後再雇用にあたり定年前と著しく異なる簡易な業務と低額な給与を提示され、これを拒否して定年退職した従業員が損害賠償を求めた訴訟では、もはや継続雇用の実質を欠いており、高年齢者雇用安定法の趣旨に明らかに反する違法なものとされた事件(トヨタ自動車ほか事件、名古屋高裁 平28.9.28)などがあります。

 

これらのことから今後の高齢者雇用に対する対応は、これまでの考え方を変えていく必要があります。これまでは、定年までの現役世代と定年退職後の再雇用社員とで区分し処遇も違うものとして人事管理してきていることが一般的でした。企業にとっては定年後再雇用社員の給与を抑えて現役世代の社員に配分し、人件費の調整をしたいという意図があると思われます。しかし、今後は少子化や高齢者の就労促進といった社会的側面や前述の裁判例に見るような法的な側面から、今までの人事制度の見直しを余儀なくされることとなるでしょう。高齢者をどのように活用していくかを考えるとともに、企業の人件費と人材への投資、従業員の役割に応じた人材配置と人事評価の実施の一層の促進、生産性の向上などの観点から、自社にとって最適な人事制度を構築していくことが必要です。

 

 

※1 厚生労働省平成29年12月27日「平成29年就労条件総合調査の概況」より
※2 独立行政法人労働政策研究・研修機構平成27年1月30日「「60 代の雇用・生活調査」結果」より
※3 独立行政法人労働政策研究・研修機構平成28年6月30日「60代後半層の雇用確保には、健康確保の取組みが必要」より

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