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2017年04月27日
高年齢者雇用安定法が施行・改正されて数年経ちますが、3つの高年齢者雇用確保措置のうち再雇用を選択している企業が多くなっています。定年退職によって形式上はいったん退職しますが、翌日から嘱託社員などの雇用形態として再雇用されます。この再雇用にあたって労働条件が変更になることが一般的ですが、この企業から提示される労働条件について参考になる判断が名古屋高裁で出されました。
トヨタ自動車ほか事件(名古屋高裁平成28年9月28日判決)
【事例の概要】
トヨタ自動車に事務職として勤務していた従業員(控訴人、一審原告)が定年退職をしました。
トヨタ自動車は、定年後再雇用制度として再雇用の基準を設けていました。平成24年の高年齢者雇用安定法の改正により定年時の再雇用基準を設けることができなくなり原則希望者全員を再雇用しなければならなくなりましたが、法改正以前に労使協定を結んでいた場合に限って特例がありました。
この特例の内容は、労使協定により65歳まで継続雇用する対象者を限定する基準を定めている場合には、平成25年4月からの厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢の段階的引き上げに合わせて、再雇用の基準に満たない場合でも厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢まで継続して雇用する制度とすることを企業に求めたものでした。
トヨタ自動車も、この高年齢者雇用安定法改正に伴い再雇用は原則希望者全員としましたが、労使協定により再雇用基準を満たす者はスキルドパートナーとしての職務を提示し、基準に満たない者にはパートタイマー就業規則に定める職務を提示することとしました。
この従業員は、再雇用基準に満たなかったためパートタイマーとしての職務を提示されましたが、これを拒否したため再雇用されませんでした。
提示された労働条件は次のとおりです。
(定年前の労働条件)
【判決のポイント】
裁判所は定年後の継続雇用の労働条件について、主に2つのポイントが示されました。
企業側に定年後の継続雇用としてどのような労働条件を提示するかについては、一定の裁量があることを前提として、
など、実質的に継続雇用の機会を与えたとは認められない場合においては、高年齢者雇用安定法の趣旨に明らかに反するものである、とされました。
この事例において上記2つの裁判所の判断は、
1.給与水準について、
定年前の年収が約970万円に対して再雇用後は約120万円の提示でした。しかし老齢厚生年金が約149万円で再雇用後の給与水準が年金の約85%だったため、高年齢者雇用安定法の趣旨に照らし、到底容認できないような低額の給与水準であるということはできない、とされ容認されました。
2.職務内容について、
要点としては、定年前と定年後の職務内容を比べ事務職と清掃業務と明らかに違うので、継続雇用の意味を成さない。このように明らかに違う業務を提示するためには、定年前の業務を解雇できるくらいの適格性の欠如がないと許されないが、本件ではそのような事情がないので清掃業務を提示したことは違法である、とされました。
裁判所の判決を引用すると「定年前の事務職に比べて明らかに単純労務となったのは明らかで、高年齢者雇用安定法の趣旨からすると被控訴人会社(企業側)は、控訴人(従業員)に対し、その60歳以前の業務内容と異なった業務内容を示すことが許されることはいうまでもないが、両者が全く別個の職種に属するなど性質の異なったものである場合には、もはや継続雇用の実質を欠いており、むしろ通常解雇と新規採用の複合行為というほかないから、従前の職務全般について適格性を欠くなど通常解雇を相当とする事情がない限り、そのような業務内容を提示することは許されないと解すべきである。・・・したがって・・・被控訴人会社の提示した業務内容は社会通念に照らし、労働者にとって到底受け入れ難いようなものであり実質的に継続雇用の機会を与えたとは認められないのであって、高年齢者雇用安定法の趣旨に明らかに反する違法なものであり・・・」とされました。
【人事・労務管理のポイント】
企業において定年退職後の再雇用の職務内容は悩みが多いところです。この判決が示すとおり、定年前と定年後の職務内容について、違う職務内容を提示すること自体は許されないわけではありませんので、定年前と比べて同程度の内容・難易度等の職務であれば提示することは可能だと思われます。
しかし、定年前と比べて明らかに相当程度レベルの低い職務を提示することは継続雇用ではなく、実質的に解雇して新規採用したような形と捉えられ違法となる恐れがあります。つまり、第三者から見て企業が従業員を退職させるために提示したような職務だと、高年齢者雇用安定法の趣旨から反し違法となるということです。