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2017年07月10日
有期労働契約と正社員の労働条件の相違について争われた事件はありますが、労働契約法20条を争点として争われた事件は今のところまだ数える程度しかありません。その中でも注目されている事件として「ハマキョウレックス(差戻審)事件」を見ていきたいと思います。
ハマキョウレックス(差戻審)事件(一審 大津地裁彦根支部 平成27年9月16日判決、二審 大阪高裁 平成28年7月26日判決)
【事件の概要】
一般貨物自動車運送業等を営むY社と期間契約社員Xとの間で、Y社において期間の定めのない社員(正社員)の労働条件と比較して不合理な相違のある労働条件の部分は、公序良俗に反して、または労働契約法20条に反して無効であるから正社員と同一の賃金の支払を求めた事案です。
労働契約法20条とは、有期労働契約の労働者と無期労働契約の労働者との間に労働条件の相違がある場合に、不合理に労働条件に差をつけてはならないというものです。
不合理などうかは以下の三つから判断されます。
(参考)労働契約法20条(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)
「有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められる者であってはならない。」
Xは、平成20年10月6日に以下の内容でY社と労働契約を締結しました。
正社員と期間契約社員の賃金の相違について
. (正社員) (期間契約社員)
なお、通勤手当については平成26年1月以降、正社員・期間契約社員の区別なく正社員の基準で支給されるようになりました。
判決の概要としては、Xの労働条件は公序良俗または労働契約法20条に反して無効であるか。つまりXの労働条件は期間の定めがあることによる不合理な労働条件といえるかが、示されました。
【一審において(平成27年9月16日判決)】
まず、裁判官は「労働契約法20条における「不合理と認められるもの」とは、有期契約労働者と無期契約労働者との間の当該労働条件上の相違がそれら労働者間の職務内容や職務内容・配置の変更の範囲の異同にその他の事情を加えて考察し、当該企業の経営・人事制度上の施策として不合理なものと評価せざるを得ないものを意味すると解すべき」と判示しました。つまり、不合理なものかどうかの判断は労働契約法20条の条文通りで判断しますよ、としました。
本件において、まず、正社員と期間契約社員の業務内容自体に大きな相違は認められないとしました。
しかし、正社員には就業場所や業務内容の変更、出向も含めて全国規模の広域異動、教育を受ける義務を負い将来管理責任者等の中核を担う人材として育成される立場にあるが、期間契約社員には業務内容、労働時間、休息時間、休日等の労働条件の変更があるにとどまるとされました。
このような正社員と期間契約社員の労働条件の差は、Y社の経営・人事制度上の施策から生じているもので、少なくとも無事故手当、作業手当、給食手当、住宅手当、皆勤手当、家族手当、一時金の支給、定期昇給、退職金の支給については、”不合理なものとはいえない”とされました。
ただし、通勤手当は交通費の実費補填であるから、Y社の経営・人事制度上の施策に基づくものではないから不合理なものであると判断され、一審では通勤手当だけが”不合理”なものと認められました。
【二審において(平成28年7月26日判決】
本件は労働契約法20条が適用になることを前提として、一審同様に正社員のドライバーと期間契約社員のドライバーの業務内容自体に大きな相違はなく、正社員と期間契約社員にはY社の人材活用の仕組みの有無に相違があるとされました。
一審と異なったのは、人材活用の仕組みの有無に相違があるから、「不合理と認められるもの」の判断は、個々の労働条件ごとに検討しなければならないとされ、各手当ごとに検討がなされました。
●無事故手当について
無事故手当は、1か月間無事故で勤務した場合に、優良ドライバーの育成や安全な輸送による顧客の信頼の獲得といった目的で支給されるのもなので、正社員の人材活用の仕組みとは直接関連性を有するものではないため”不合理”とされました。
●作業手当について
作業手当は、元来、手積み・手降ろし作業に対して支給されていたもので、過去に正社員だけが手で積み下ろしをしていたということはないため”不合理”とされました。
●給食手当について
給食手当は、あくまで従業員の給食の補助として支給されるものであって、職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲とは無関係に支給されるため”不合理”とされました。
●住宅手当について
正社員は転居を伴う配転(転勤)が予定されていて、転勤のない期間契約社員と比べて住宅コストの増大が見込まれ、また長期雇用を前提とした正社員への福利厚生を厚くし有能な人材の獲得・定着を図るという目的は、Y社の人事労務上の判断として合理性を有するため”不合理なものといえない”とされました。
●皆勤手当について
皆勤手当ては、精勤に対するインセンティブを付与することで精勤を奨励するものと考えられ相違を設けることは難しいようにも思えるが、本件では勤務成績を考慮して昇給したり、契約更新時に時間給の見直しが行われることがあるため”不合理とまではいえない”とされました。
●通勤手当について
通勤手当は、通勤のために要した交通費を補てんするものなので、職務の内容や職務の内容及び配置の変更の範囲とは無関係に支給されるため”不合理”とされました。
●その他の労働条件について
その他の労働条件(家族手当、一時金の支給、定期昇給及び退職金の支給)について、Xが正社員と同一の権利を有すると主張していたため、裁判官は労働契約法20条違反は当然に正社員と同一の労働条件になるわけではない(補充的効力を有するものと認められない)とし、就業規則をみても無効となった部分については正社員就業規則が適用されるとなっていないため、正社員と同一の労働条件とはならないとされました。
【判決のポイント】
判決の主なポイントは二つ。
ただ現時点で、この事件は上告され最高裁で争われているため、今後の動向が注目されます。
【人事・労務管理のポイント】
労働条件といっても賃金だけではなく、労働時間、休日、休暇、休職などなど、さまざまなものがあります。また賃金は、この事件のように一律に賃金ではなく各手当や賞与、退職金などに分かれます。このそれぞれの労働条件ごとに、正社員と期間契約社員(有期契約のパート・アルバイトを含む)の違いを明確に説明できるようにしておくことが肝要です。その違いの視点としては、労働契約法20条に規定されている「職務の内容(職務内容や責任の範囲)」「当該職務の内容及び配置の変更の範囲」の二つを中心に何が違うのかを検討しておく必要があります。一覧表にして管理しておくと、検討しやすく後で確認しても分かりやすくなります。
また、判決のポイントの二つ目で示した通り、労働契約法20条違反の場合でも直ちに有期契約労働者の労働条件を正社員の労働条件にしなければならないわけではありません。この場合、特に注意しなければならないのは、正社員や契約社員、パート・アルバイト等の就業規則の規定です。労働契約法20条違反となった場合はその部分については無効となります。その時に有期契約労働者の就業規則を読むと、記載のない内容は正社員就業規則によるなどとなっていた場合には、無効となった部分は記載のない内容となってしまうため正社員の労働条件となってしまうことがありえます。そのため、就業規則の記載の内容をしっかりと確認しておく必要があります。特に雇用形態が複数ある場合には、その雇用形態別の就業規則の適用範囲をしっかりと分けておき曖昧な部分をなくしておくことが大切です。