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【労働判例に学ぶ人事・労務管理】契約社員と正社員の労働条件の相違(メトロコマース事件)

カテゴリー 2019年01月30日

メトロコマース事件(東京地裁平成29年3月23日判決)

(株)メトロコマース(Y社)の契約社員として有期労働契約を締結し、東京メトロ駅構内の売店にて販売業務に従事していたⅩら4名が、機関の定めのない正社員と同一内容の業務に従事しているにもかかわらず賃金等の労働条件においてⅩらと差異があることが、労働契約法20条に違反し、かつ公序良俗に反すると主張して差額賃金等の支払いを求めた事件です。

 

【事件の概要】

Y社は、東京メトロ100%子会社として東京メトロ駅構内における物品販売、その他の事業を行う株式会社でした。Y社の雇用形態は「正社員」、「契約社員A」、「契約社員B」の区分が設けられていて、それぞれ社員区分ごとに異なる就業規則がありました。

 

正社員は、65歳を定年退職とする期間の定めのない労働契約でした。

 

契約社員Aは、主に雇用期間を1年間とする有期労働契約で職種限定契約を結ぶもので、平成14年以降は新たに採用したことはなく、主に登用制度により契約社員B~契約社員Aに登用された者で、いわゆる契約社員Bのキャリアアップの雇用形態として位置づけられていました。

 

契約社員Bは、1年以内の有期労働契約で、契約期間は3か月、6か月、1年とされ、一時的補完的な業務に従事する職種限定契約でした。

 

Ⅹら4名は、いずれも「契約社員B」として採用され、期間1年以内の有期労働契約を反復更新して、東京メトロ駅構内の売店において販売業務に従事していました。

 

正社員と契約社員Bとの間には、以下の賃金等について相違がありました。

ア.本給及び資格手当

イ.住宅手当

ウ.賞与

エ.退職金

オ.褒賞

カ.早出残業手当

Ⅹら4名は、正社員と業務の内容及び責任、職務等の変更の範囲が同一であるにもかかわらず、上記の労働条件の相違は労働契約法20条に違反すると主張して不法行為及び債務不履行の基づき損害賠償等を求めました。

 

【判決のポイント】

(1)労働契約法20条の適用はあるか

(2)正社員と契約社員Bの相違について

(3)賃金等の相違が不合理かどうか

 

【判決の内容】

(1)労働契約法20条の適用はあるか

まず裁判所は、労働契約法20条の適用の考え方を確認し、「労働契約法20条は有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の相違が不合理なものとであることを禁止する趣旨の規定であると解されるところ、同条の「期間の定めがあることにより」という文言は、有期契約労働者の労働条件が無期契約労働者の労働条件と相違するというだけで当然に同条の規定が適用されることにはならず、当該有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の相違が、期間の定めの有無に関連して生じたものであることを要するという趣旨であると解するのが相当である。」としました。

 

本件においては、契約社員Bは、原則、有期契約労働者であり正社員とは別個の就業規則が定められていたため、契約社員Bと正社員との間の労働条件の相違は期間の定めの有無に関連して生じたものは明らかであるから労働契約法20条の適用はあるとされました。

 

(2)正社員と契約社員Bの相違について

労働契約法20条は、不合理性の判断について①職務の内容、②当該職務の内容及び配置の変更の範囲、③その他の事情、を考慮するとしているところ、本件では①職務の内容と②当該職務の内容及び配置の変更の範囲によって判断されました。

 

①職務の内容についての判断

正社員は、Y社の各部署において売店以外の多様な業務に従事していて、売店業務はキャリア形成の過程で1~2年程度従事するに過ぎないものであるのに対して、契約社員Bは売店間での配置換えはあっても売店業務以外の業務に従事することはありませんでした。

 

売店業務において、正社員は代務業務(休暇や欠勤で不在の固定売店販売員の代わりに、毎日異なる売店において早番及び遅番の業務)に従事するのに対して、契約社員Bは原則として代務業務を行うことはありませんでした。また、正社員はエリアマネージャー業務を行うのに対して、契約社員Bは行うことはありませんでした。

 

以上のことから、職務の内容について正社員と契約社員Bには相違があるとされました。

 

②当該職務の内容及び配置の変更の範囲についての判断

正社員は、業務の必要により配置転換、職種転換、出向を命ぜられ正当な理由なく拒むことはできませんでしたが、一方、契約社員Bは業務の場所(売店)の変更は命ぜられることはあっても、配置転換や出向を命じられることはありせんでした。

 

このことから、職務の内容及び配置の変更の範囲について正社員と契約社員Bには相違があるとされました。

 

(3)賃金等の相違が不合理かどうか

そして、前述の(2)の①と②を踏まえてそれぞれの労働条件の差が不合理なものであるといえるかどうかが判断されました。

 

ア.本給及び資格手当の相違について

正社員は月給制で昇給があり賃金制度が設けられており、その中で資格に応じた資格手当が加算されていたが、契約社員Bは時給制で毎年10円ずつ昇給があり資格手当は支給されていませんでした。

 

正社員と契約社員Bとの間には、職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲に大きな相違があるうえ、正社員には長期雇用を前提とした年功的な賃金制度が設け、短期雇用を前提とする有期契約労働者にはこれと異なる賃金体系を設ける制度設計をすることには、企業の人事施策上の判断として一定の合理性があると認められるとされました。

 

そして、契約社員Bの本給は正社員の1年目の本給より高く、3年目でも同程度で、10年目で比較しても8割以上は確保されていることに加え毎年10円ずつ昇給し、正社員にはない早番手当や皆勤手当が支給されることなどを踏まえると、不合理なもであるとはいえないとされました。

 

イ.住宅手当の相違について

正社員には、扶養家族がある者、ない者、それぞれに対して一律に住宅手当が支給されているが、契約社員Bには支給されていませんでした。

 

住宅手当が一律に支給されているということは、住宅費用の補助というよりは正社員に対する福利厚生としての性格が強い手当ということができ、正社員は転居を伴う可能性のある配置転換や出向が予定され、配置転換や出向が予定されていない契約社員Bと比べて住宅コストの増大が見込まれることに照らすと、正社員に対してのみ住宅手当を支給することが不合理であるということはできない。また、長期雇用関係を前提とした配置転換のある正社員への住宅費用の援助及び福利厚生を手厚くすることによって有為な人材の獲得・定着を図るという目的は人事施策上合理性を有するとされ、住宅手当における正社員と契約社員Bとの相違は不合理ではないとされました。

 

ウ.賞与の相違について

正社員と契約社員Bに対して年2回の賞与の支給がありましたが、正社員には月額給与(本給)の2か月分に一定額を加算した賞与がそれぞれ年2回支給される一方で、契約社員Bには一律に12万円がそれぞれ年2回支給されるにすぎませんでした。

 

正社員と契約社員Bとの間には、職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲に大きな相違があることや、契約社員Bにも年2回各12万円の賞与が支給されることに加え、賞与が労働の対価としての性格だけでなく功労褒賞的な性格や将来の労働への意欲向上としての意味あいを持つことを踏まえると、長期雇用を前提とする正社員に対し賞与の支給を手厚くすることにより有為な人材の獲得・定着を図るという目的にも一定の合理性が認められ、賞与における正社員と契約社員Bの相違は不合理なものであるとまでは認められないとされました。

 

エ.退職金の相違について

正社員には退職金制度があり勤続年数に応じた金額が支給されるのに対して、契約社員Bには退職金制度がありませんでした。

 

一般に退職金が賃金の後払い的性格だけでなく功労報償的な性格があることから、企業が長期雇用を前提とした正社員に福利厚生を手厚くし、有為な人材の確保・定着を図るなどの目的をもって正社員に対する退職金制度を設け、短期雇用を原則とする有期契約労働者に対して退職金制度を設けないという制度設計をすることは人事施策上一定の合理性があるされ、退職金制度における正社員と契約社員Bの相違は不合理とまでは認められないとされました。

 

オ.褒賞の相違について

褒賞については、永年勤続以外は正社員と契約社員Bとの間に相違はありませんでしたが、正社員には永年勤続に対する褒賞があるのに対して、契約社員Bにはありませんでした。

 

永年勤続に対する褒賞は、永年勤続しY社に貢献した従業員に対し褒賞を支給するというものであるから、長期雇用を前提とする正社員だけを支給対象として、有期労働契約を締結し短期雇用が想定される契約社員Bには褒賞を支給しないという取り扱いをすることは不合理とまではいえないとされ、また、正社員と契約社員Bとの間には、職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲に大きな相違があること、長期雇用を前提とする正社員に対する福利厚生を手厚くすることにより有為な人材の確保・定着を図るという目的自体に一定の合理性があることからすれば、褒賞における正社員と契約社員Bとの間の相違は、不合理なものとまでは認められないとされました。

 

カ.早出残業手当の相違について

正社員には所定労働時間を超える勤務について始めの2時間までは2割7分増、2時間を超える時間については3割5分増の早出残業手当が支給されるのに対して、契約社員Bには時間にかかわらず2割5分増の早出残業手当(法定通り)が支給されるという相違がありました。

 

早出残業手当は、時間外労働に対する割増賃金としての性格であるとしたうえで、労働基準法37条が時間外労働等に対する割増賃金の支払いを義務付けている趣旨は、時間外労働は通常の労働時間に付加された特別の労働であることから使用者に割増賃金を支払うという経済的負担を課すことにより、時間外労働等を抑制することにある。このような割増賃金の趣旨に照らせば、従業員の時間外労働に対して正社員であるか有期契約労働者であるかを問わず等しく割増賃金を支払うべきであって、このことは法定割増率を上回る場合でも妥当するべきである一方、長期雇用を前提とした正社員に対してだけ福利厚生を手厚くしたり、有為な人材の確保・定着を図ったりする目的のもとに有期契約労働者よりも割増率の高い割増賃金を支払うことには合理的な理由が見出しがたいとされました。

 

そして、割増賃金の性質を有する早出残業手当の相違は、労働契約の期間の定めの有無だけを理由とする相違であるため、不合理なものというべきであるとされました。

 

以上によって、この事件で争われた賃金(前述 ア~カ)の中で、カ.早出残業手当だけが労働契約法20条に違反するものとされ、その差額相当額の支払いが命じられました。

 

【労務管理のポイント】

労働契約法20条の有期労働契約における不合理な労働条件の禁止が争点となった裁判では、基本的な考え方の枠組みとして、まず、正社員と有期労働契約労働者の相違点を明確にして、次に正社員と有期契約労働者との間で異なる労働条件一つひとつについてその相違点に基づくものかどうかが判断されています。

 

企業においては、正社員と有期契約労働者との違いを①職務の内容、②職務の内容及び配置の変更の範囲、③その他の事情、の視点から明らかにしておくことが必要になります。そのうえで、正社員と有期契約労働者とで異なる労働条件一つひとつを①~③の違いに基づいたものになっているかどうかを確認する必要があります。そして、その違いについて説明できることが求められることに留意が必要です。

 

また、この労働条件の違いは賃金だけではなく、全ての労働条件が対象になることにも注意しましょう。

 

2018年12月に厚生労働省から「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」(いわゆる「同一労働同一賃金ガイドライン」)が出されています。このガイドラインも確認しておくことが望ましいでしょう。

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